東京地方裁判所 平成8年(ワ)3871号 判決 2000年4月27日
原告
株式会社北典社
右代表者代表取締役
【A】
右訴訟代理人弁護士
鈴木和夫
同
鈴木きほ
同
巻嶋健治
被告
株式会社エスト
右代表者清算人
【B】
主文
一 被告は、原告に対し、金七〇〇〇万円及びこれに対する平成八年三月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを五分し、その三を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。
四 本判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一原告の請求
一 被告は、別紙「物件目録」記載の各看板を製造し、販売し、使用し、又は貸し渡してはならない。
二 被告は、その保管中の前項記載の各看板を廃棄せよ。
三 被告は、原告に対し、金一億二〇〇〇万円及びこれに対する平成八年三月八日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、原告が被告に対し、冠婚葬祭用木製看板の実用新案権の侵害を理由として、別紙「物件目録」記載の各看板の製造・販売等の差止め及び廃棄並びに損害賠償を求め、予備的に、同目録記載の各看板のうち「ロ号物件一」及び「ロ号物件二」について、被告が不正競争防止法二条一項一二号所定の不正競争に該当する行為をしたことを理由として、その製造・販売等の差止め及び廃棄並びに損害賠償を求めている事案である。
一 争いのない事実等
1 原告は、冠婚葬祭用品の製造並びに卸し、小売及び貸出し等を目的とする株式会社である。
被告は、平成四年六月一〇日に設立された、冠婚葬祭用品の販売及びレンタル等を目的とする株式会社であり、平成九年五月三一日の株主総会決議により解散した。(甲第一四号証及び第一六号証によって認められる。)
2 原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」という。)を有している。
登録番号 第二〇八〇二七一号
考案の名称 冠婚葬祭用木製看板
出願年月日 昭和六一年二月二四日
出願番号 昭六一-二五三八四
出願公告年月日 平成四年三月一六日
出願公告番号 平四-一〇六二五
登録年月日 平成七年九月一八日
3 本件実用新案権に係る明細書(平成六年三月一七日付け手続補正書による補正後のもの。以下「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲の記載は、次のとおりである(以下、この考案を「本件考案」という。)。
「檜の板材を表面に張り合わせた合板を心材の両側に取り付け中空体状とし、表示を行うべき表裏の両側に檜の木目模様が現われるようにした看板本体と、この看板本体の表裏の両側の表面に形成され、無色透明で上記木目模様が透視可能で、かつ、その表面に黒色水性インキによる表示、及び、上記黒色水性インキによる表示の水による除去を行え、表示の書換えを自在とする合成樹脂層とから構成した冠婚葬祭用木製看板。」
4 本件考案の構成要件を分説すれば、次のとおりである(以下、分説した各構成要件をその符号に従い「構成要件A」のように表記する。)。
A 檜の板材を表面に張り合わせた合板を心材の両側に取り付け中空体状とし、
B 表示を行うべき表裏の両側に檜の木目模様が現われるようにした看板本体と、
C この看板本体の表裏の両側の表面に形成され、無色透明で上記木目模様が透視可能で、かつ、その表面に黒色水性インキによる表示、及び、上記黒色水性インキによる表示の水による除去を行え、表示の書換えを自在とする合成樹脂層とから構成した
D 冠婚葬祭用木製看板
5 被告は、板材を表面に張り合わせた合板を心材の両側に取り付け中空体状とし、表示を行うべき表裏の両側に右板材の木目模様が現われるようにした看板本体と、この看板本体の表裏の両側の表面に形成された無色透明で右木目模様が透視可能な合成樹脂層とから構成した、冠婚葬祭用木製看板(以下「被告商品」という。
これが別紙「物件目録」記載の各看板と同一の構成であるかどうかについては、争いがある。)について、平成四年六月一〇日から平成八年二月二九日までの間、その取引上用いていた価格表に「檜看板」又は「檜式次第」と表示した上で、これを使用し、また、第三者に貸し渡していた。
6 被告商品は、構成要件Dを充足する。
7 被告の全売上高に対する被告商品に係る売上高の割合は、約一〇パーセントであり、また、その粗利益率は、少なくとも七五パーセントを下らない。
二 当事者の主張
(原告の主張)
1(一) 被告商品は、別紙「物件目録」記載の各看板のうち「イ号物件一」と表記されているもの(以下「イ号物件一」という。)と同一の構成であり、被告は、平成四年三月一七日から、これを業として製造し、販売し、使用し、貸し渡している。
被告は、被告商品につき、表面の板材としてベイトウヒ又はスプルースを使用したものである旨主張するが、事実に反する。
また、被告は、被告商品につき、表面に形成された合成樹脂層の上に更に合成樹脂フィルムを貼付したものである旨を主張するが、仮に被告商品がそのようなものであったとしても、その合成樹脂層は表面に黒色水性インキによる表示及びその表示の水による除去を行い得るものであり、その合成樹脂フィルムは単なる保護用フィルムであるから、イ号物件一の使用形態の一つにすぎない。
(二) イ号物件一の構成は、別紙「物件目録」一1(一)記載のとおりである。
したがって、イ号物件一は、構成要件AないしCを充足し、本件考案の技術的範囲に属する。
(三) よって、原告は被告に対し、イ号物件一の製造・販売等の差止め及び廃棄、並びにその製造・販売等によって原告が被った損害の賠償を求めることができる。
2(一) 被告商品が合成樹脂層の上に更に合成樹脂フィルムを貼付したものであるとすると、被告は、平成四年三月一七日から、別紙「物件目録」記載の各看板のうち「イ号物件二」と表記されているもの(以下「イ号物件二」という。)を、業として製造し、販売し、使用し、貸し渡していることになる。
(二) イ号物件二の構成は、別紙「物件目録」一1(二)記載のとおりである。
イ号物件二は、イ号物件一の合成樹脂層6の表面に合成樹脂フィルム9が剥離可能に貼付されたものであって、合成樹脂フィルム9は単なる保護用フィルムであるから、イ号物件二は、イ号物件一の使用形態の一つにすぎない。
また、本件考案にいう「合成樹脂層」は、二層に形成された構成を何ら排斥するものではないところ、合成樹脂フィルム9は、合成樹脂を素材とし、看板本体の表面に形成され、無色透明で木目模様が透視可能で、かつ、その表面に黒色インキによる表示、及びその表示の水による除去を行うことができ、表示の書換えを自在とするから、それ自体、本件考案における「合成樹脂層」に該当する。
したがって、イ号物件二は、構成要件AないしCを充足し、本件考案の技術的範囲に属する。
(三) よって、原告は被告に対し、イ号物件二の製造・販売等の差止め及び廃棄、並びにその製造・販売等によって原告が被った損害の賠償を求める。
3(一) 被告商品が表面の板材としてベイトウヒ又はスプルースを使用したものであるとすると、被告は、平成四年三月一七日から、別紙「物件目録」記載の各看板のうち「ロ号物件一」及び「ロ号物件二」と表記されているもの(以下、それぞれ「ロ号物件一」、「ロ号物件二」という。)と同一の構成の看板を、業として製造し、販売し、使用し、貸し渡していることになる。
(二) ロ号物件一の構成は、別紙「物件目録」一2(一)記載のとおりである。
ロ号物件一は、表面の板材としてベイトウヒ又はスプルースが使用されたものであるが、本件考案において表面の板材が「檜」とされているのは、檜が高品位に見え、葬儀等のしめやかな雰囲気を保つことができ、関係者の故人に対する敬意を表すことができることによるものであり、また、本件考案が「冠婚葬祭、特に葬儀の式場等を表示する際に掲げる冠婚葬祭用木製看板の改良に関する」ものであることからすると、当業者あるいはその関係者において檜として認識されれば足りるものである。そうすると、本件考案における「檜」には、純植物学的な檜に限らず、檜と木目模様の形状、色彩等が酷似しているベイトウヒ又はスプルースも含まれるというべきである。
したがって、ロ号物件一は、構成要件AないしCを充足し、本件考案の技術的範囲に属する。
(三) ロ号物件二の構成は、別紙「物件目録」一2(二)記載のとおりである。
前記のとおり、合成樹脂フィルム9は単なる保護用フィルムであるから、ロ号物件二は、ロ号物件一の使用形態の一つにすぎず、また、本件考案にいう「合成樹脂層」は、二層に形成された構成を何ら排斥するものではなく、合成樹脂フィルム9も「合成樹脂層」に該当する。
したがって、ロ号物件二は、構成要件AないしCを充足し、本件考案の技術的範囲に属する。
(四) よって、原告は被告に対し、ロ号物件二の製造・販売等の差止め及び廃棄、並びにその製造・販売等によって原告が被った損害の賠償を求める。
4 平成四年三月一七日から平成八年二月二九日までの間の被告の全売上高は、平成四年六月一〇日から平成八年五月三一日までの間における被告の全売上高一六億七二二八万九七〇二円にほぼ対応するものと考えられるところ、被告の全売上高に対する被告商品に係る売上高の割合は、約一〇パーセントであり、また、被告商品に係る利益率は七五パーセントを下らないから、被告は、本件実用考案権侵害により、平成四年三月一七日から平成八年二月二九日までの間に、少なくとも一億二〇〇〇万円の利益を得たものと認められる。したがって、原告が受けた損害の額は、一億二〇〇〇万円であると推定される。
よって、被告は、原告に対して一億二〇〇〇万円を賠償する責任を有する。
5 仮にベイトウヒ又はスプルースが本件考案における「檜」に該当せず、ロ号物件一及びロ号物件二が本件考案の技術的範囲に属しないとしても、被告は、ロ号物件一及びロ号物件二について、被告の価格表等に「檜看板」又は「檜式次第」と表示して、これを顧客である葬儀業者等に譲渡し、貸し渡している。被告の右行為は、不正競争防止法二条一項一二号所定の不正競争行為に該当する。
したがって、原告は、ロ号物件一及びロ号物件二につき、被告に対し、予備的に不正競争防止法三条に基づいてその製造・販売等の差止め及び廃棄を、同法四条及び五条に基づき損害賠償を求める。
(被告の主張)
1 被告が被告商品を使用し、貸し渡していたことは認めるが、その製造・販売は行っていない。被告商品は、表面の板材としてベイトウヒ又はスプルースを使用し、また、看板本体の表裏の両側の表面に形成された合成樹脂層の上に更に合成樹脂フィルムを貼付したものである。
2 檜は、まつ目ヒノキ科ヒノキ属の樹木であるのに対し、ベイトウヒ及びスプルースは、まつ目まつ科トウヒ属の樹木であって、両者は植物分類学上全く別個のものである。そして、「檜の無垢材と同様に高品位に見え・・・係る効果は、看板がいかに実物の檜に似たものであったとしても、模造品では醸し出すことができないものである。」という本件明細書の記載などに照らせば、檜以外の板材では、本件考案の所期の目的は達成し得ず、本件考案においては、檜を用いることが不可欠の構成要件である。したがって、表面の板材としてベイトウヒ又はスプルースを使用した被告商品は、構成要件A及びBを充足せず、本件考案の技術的範囲に属するものではない。
3 看板本体の表裏の両側の表面に形成された合成樹脂層の上に更に合成樹脂フィルムを貼付したことの目的は、合成樹脂層の保護にあるのではなく、右合成樹脂フィルムの表面に黒色インキを表示し、かつ、その表示を水によってではなく右合成樹脂フィルムの剥離によって除去し、看板本体を損なうことなく表示の書換えを行うところにあり、被告商品も右のように使用されているものである。したがって、被告商品は、本件考案と技術思想を異にするものであり、構成要件Cを充足せず、その技術的範囲に属するものではない。
4 被告は、その営業上使用していた価格表において、被告商品を「檜看板」又は「檜式次第」と表示して第三者に貸し渡していた。しかし、葬儀業界においては、「檜看板」という用語が「布製看板」に対応するものとして用いられており、一般に、ベイトウヒ又はスプルースを使用した看板も「檜看板」と呼称されている。また、被告は、平成八年六月ころから、納品書及び請求書に「白木看板」と表示している。したがって、被告は不正競争防止法二条一項一二号所定の不正競争行為を行っていない。
三 争点
1 被告は、イ号物件一、二又はロ号物件一、二を、平成四年三月一七日から業として製造、販売し、使用し、又は貸し渡しているか。
2 イ号物件一、二、ロ号物件一、二が構成要件AないしCを充足し、本件考案の技術的範囲に属するか。
3 ロ号物件一、二が本件考案の技術的範囲に属しない場合、これを価格表等に「檜看板」又は「檜式次第」と表示して貸し渡すなどの行為が、不正競争防止法二条一項一二号所定の不正競争行為に該当するか。
4 原告の損害額
第三当裁判所の判断
一 争点1について
1(一) 被告商品の構成については、(1)表面の板材として檜が使用されているのか、それともベイトウヒ又はスプルースが使用されているのか、(2)表面に形成された合成樹脂層の上に更に合成樹脂フィルムを貼付したものであるかどうかの二点が問題となる。
(二) まず、被告商品の表面に用いられた板材について検討するに、甲第五号証、第八号証、第九号証の一及び二、第一二号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成四年八月ころ、当時被告の従業員であった【C】の担当により、ウェイブ株式会社(以下「ウェイブ」という。)に対し、表面の板材として檜が使用された冠婚葬祭用木製看板の製造を発注し、ウェイブからこれを仕入れたこと、原告は、被告が平成四年八月にウェイブから仕入れて被告川越店で使用していた冠婚葬祭用木製看板を入手し、保管しているが、その表面の板材は、ベイトウヒやスプルースではなく、檜であることが認められる。
右認定の事実に、被告が被告商品について、平成四年六月一〇日から平成八年二月二九日までの間、その取引上用いていた価格表に「檜看板」又は「檜式次第」と表示してこれを使用し、貸し渡していたこと(争いがない。)を併せみれば、被告商品は、表面の板材として檜を使用したものと認められる。甲第一二号証の一及び二(【C】作成の陳述書)には、被告が平成四年八月ころにウェイブから仕入れて以来、檜看板を仕入れていない旨、その後は山喜産業株式会社からスプルースを用いた看板を仕入れたと聞いた旨の記載があるが、他方、【C】が平成七年三月ころに被告会社を退社している旨の記載があることや、スプルースを用いた看板の仕入れについては伝聞した情報にすぎないことなどに照らせば、いずれもたやすく措信できず、他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。
(三) 次に、被告商品が、表面に形成された合成樹脂層の上に更に合成樹脂フィルムを貼付したものであるかどうかについて、検討する。
被告は、被告商品について、看板本体の表裏の両側の表面に形成された合成樹脂層の上に更に合成樹脂フィルムを貼付したものであり、合成樹脂フィルムの表面に黒色インキを表示し、右合成樹脂フィルムの剥離によってその表示を除去するようにして使用するものである旨を、主張する。
しかし、甲第一〇号証によれば、被告商品の表面に形成された合成樹脂層上には、黒色水性インキによる表示が可能であり、水によってその表示を除去することも可能であることが、認められる。そして、同号証からは、合成樹脂フィルムを貼付する作業には相当な手間を要することが窺えるものであり、これに照らせば、看板の表示を書き換える都度、合成樹脂フィルムの貼付及び剥離を繰り返すのは、極めてわずらわしく、不合理かつ不自然な使用態様であるといわざるを得ない。また、被告が実際に被告商品につき、看板本体の表面に合成樹脂フィルムを貼付し、その上に黒色インキを表示してこれを使用していることを、認めるに足りる証拠はなく、これらを併せみれば、被告商品は、看板本体の表裏の両側の表面に、無色透明で上記木目模様が透視可能で、かつ、その表面において黒色水性インキによる表示及びその表示の水による除去を行い得る合成樹脂層が形成されたものであって、その合成樹脂層の上に更に合成樹脂フィルムが貼付されたものではないというべきである。
(四) したがって、被告商品は、イ号物件一にほかならないと認められる。
2 被告が被告商品について、平成四年六月一〇日から平成八年二月二九日までの間、その取引上用いていた価格表に「檜看板」又は「檜式次第」と表示してこれを使用し、貸し渡していたことについては、争いがない。そうすると、被告商品がイ号物件一である以上、被告は、右の期間、イ号物件一を使用し、貸し渡していたものと認められる。
しかしながら、被告がイ号物件一を製造・販売していたことを認めるに足りる証拠はない。また、被告が設立された平成四年六月一〇日より前及び解散した平成九年五月三一日より後において、イ号物件一を使用し、貸し渡していたことを認めるに足りる証拠はない。さらに、既に解散決議をしている被告が今後イ号物件一を製造し、販売し、使用し、貸し渡すおそれを認めるに足りる証拠もない。
二 争点2について
1 イ号物件一が本件考案の技術的範囲に属するかどうかについて検討するに、イ号物件一の構成は、別紙「物件目録」一1(一)記載のとおりであり、イ号物件一は、aないしcとして示された構成において、それぞれ構成要件AないしCを充足する。
したがって、イ号物件一は、本件考案の技術的範囲に属する。
2 なお、念のため、被告商品が表面に形成された合成樹脂層の上に更に合成樹脂フィルムを貼付したものであり、被告がイ号物件二を使用し、貸し渡していたと認められる場合についても検討しておく。
構成要件Cは、看板本体の表裏の両側の表面に形成される合成樹脂層について、無色透明で上記木目模様が透視可能で、かつ、その表面において黒色水性インキによる表示及びその表示の水による除去を行うことができ、表示の書換えを自在とするものであることを要件とするものであり、右の要件を充たす限り、合成樹脂層が二層に形成された構成を排斥するものではない。 イ号物件二の構成は、別紙「物件目録」一1(二)記載のとおりであり、その合成樹脂層6及び合成樹脂フィルム9は、無色透明で、看板本体の木目模様が透視可能なものである。そして、表面側の合成樹脂フィルム9は、その表面において黒色水性インキによる表示及びその表示の水による除去を行うことができ、表示の書換えを自在とするものである。そうすると、イ号物件二の合成樹脂層6及び合成樹脂フィルム9の二層から成る層は、構成要件Cの「合成樹脂層」に該当する。
したがって、イ号物件二は、a及びbとして示された構成において構成要件A及びBを、c及びdとして示された構成において構成要件Cを、それぞれ充足し、本件考案の技術的範囲に属する。
なお、被告は、被告商品について、看板本体の表裏の両側の表面に形成された合成樹脂層の上に更に合成樹脂フィルムを貼付し、右合成樹脂フィルムの表面に黒色インキを表示し、右合成樹脂フィルムの剥離によってその表示を除去するようにして使用するものであり、本件考案と技術思想を異にする旨を主張するが、前判示のとおり、看板の表示を書き換える都度合成樹脂フィルムを貼付するのは、極めて不合理かつ不自然な使用態様であるといわざるを得ないこと、また、被告が実際に被告商品に合成樹脂フィルムを貼付し、その上に黒色インキを表示してこれを使用していることを認めるに足りる証拠がないことなどに照らせば、被告がその主張する方法によって被告商品を使用していると認めることはできず、被告の主張を採用することはできない。
三 争点4について
原告の損害額に関する主張は、特許法一〇二条二項に基づいて、被告が特許権侵害行為により得た利益の額を原告の損害額とするものであるところ、ここでいう「利益」とは、純利益を指すものではなく、粗利益(売上総利益)から売上額に比例して増減する、いわゆる変動経費を控除したものを意味するというべきである。
前記のとおり、被告は平成四年六月一〇日から平成八年二月二九日までの間、被告商品を使用し、貸し渡していたものと認められるところ、乙第二三号証ないし第二六号証によれば、被告の平成四年六月一〇日から平成七年五月三一日までの間の全売上高は、一二億二八八一万一四九三円であり、被告の平成七年六月一日から平成八年五月三一日までの間の全売上高は、四億四三四七万八二〇九円であることが認められる。そして、被告の平成七年六月一日から平成八年二月二九日までの九か月間の全売上高は、四億四三四七万八二〇九円の四分の三に相当する三億三二六〇万八六五七円であると推認することができるから、被告の平成四年六月一〇日から平成八年二月二九日までの間の全売上高は、一五億六一四二万〇一四九円であると認められる。
被告の全売上高に対する被告商品に係る売上高の割合が約一〇パーセントであり、また、その粗利益率が少なくとも七五パーセントを下らないことは、当事者間に争いがない。そして、冠婚葬祭用品の貸出しの業態においては、一般に、当該用品の製造ないし購入に要した原価のみならず、これを管理するための人件費等の管理費も変動経費として認められるものであり、その他本件訴訟に提出された全証拠及び弁論の全趣旨によって認められる諸般の事情を総合勘案すれば、被告商品の使用及び貸渡しに係る変動経費としては、粗利益額のうち概ね四〇パーセントと認めるのが相当であるから、被告が被告商品の使用及び貸渡しによって得た利益の額は、その粗利益額の概ね六〇パーセントであるというべきである。
右に加えて、実用新案法三〇条・特許法一〇五条の三の趣旨を併せ考慮すれば、被告は、平成四年六月一〇日から平成八年二月二九日までの間、被告商品の使用及び貸渡しによって、七〇〇〇万円の利益を得たものと認められ、原告は、被告の特許権侵害行為によって、同額の損害を被ったものというべきである。
四 結論
以上によれば、原告は被告に対し、七〇〇〇万円の損害賠償を求めることができるが、別紙「物件目録」記載の各看板の製造・販売等の差止め及び廃棄を求めることはできないというべきであり、原告の請求は、右金額及びこれに対する平成八年三月八日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 三村量一 裁判官 中吉徹郎)
裁判官 長谷川浩二は、転補につき、署名押印することができない。
<以下省略>